「んでんで?何に対しての謝罪だったの?」
ゆっくり話が出来るようにと、リビングへ移動し、早速、話を促す。
レイヴンの真正面に座ったユーリが口を開いた。
レイヴンのおかげか、最早ユーリに深刻そうな雰囲気はなく、いつもの彼女らしく落ち着いている。
「んー…迷惑掛けることに対しての謝罪っていうのかな。とにかく、不安、だったんだよ。レイヴンのことだから、きっと産むの許してくれるとは思ってた。…それでも不安でしょうがなくって。」
「俺様とユーリの子供だって聞いて喜ばないわけないでしょ。」
レイヴンの言葉に偽りがないと証明するかのように、妊娠を打ち明けてからの彼は喜色が常に漂っていた。だが、ユーリは軽く首をふり視線を下げる。
「それだけじゃないんだよ。…俺が本当に不安だったのは、子供が出来たことでレイヴンの足手まといになること。」
「足手まといって…?」
子供を産むことで足手まといになるとは一体どういうことか。
レイヴンには全く見当がつかず、少しの緊張がはしる。
「騎士団隊長首席であり、ユニオンの幹部。そんなレイヴンのことを立場的によく思わない奴らもいるだろ?」
「まぁ、いないとは言いきれないわな。」
レイヴンは何となくだがユーリの言わんとすることがわかったようだ。緊張で微かに強張っていた表情が、元に戻っている。
ユーリはゆっくりと瞬きをひとつして、話を続けた。
「俺だって弱くはないから自分の身ぐらい自分で守れる。でも、子供も守ることが出来るか不安だった。俺達に何かあれば、きっとレイヴンの足を引っ張ることになるから。…でも、」
再びレイヴンに視線を合わせたユーリに迷いの色は見えない。
一瞬、口を開こうとしたレイヴンだか、ユーリの覚悟を決めたような眼差しに、静かに聞き続ける。
「でも、それでも産みたい。…だから、大丈夫。この子は俺が絶対に守ってみせるよ。」
「…ユーリ。」
腹の子の為、覚悟を決めたユーリはニッコリと笑顔を向けた。
レイヴンは微かな苦笑を返すと、徐に立ち上がりユーリを抱き締める。
「確かに、俺を敵視する奴らはこの子を狙うだろう。でもユーリは一人じゃないでしょ。」
「…?」
「俺達二人の子供なら二人で護ればいい。どうして俺の足手まといになるだなんて考えるんだ。俺だって大切な家族護るのは当たり前のことだろう?」
「ぁ…。」
始めは何のことか解らず首を傾げていたユーリも、レイヴンの言葉の意味が解ると目を見開き一筋の涙を流す。
「ユーリは一人で頑張り過ぎ。これからは3人で生きていくんだからさ、もっと夫である俺を頼ってよ。」
止めどなく流れ落ちる透明な涙。
レイヴンは微笑むと静かにユーリの濡れた頬へ唇を寄せた。
(これからはふたり)
end
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