あの湖での出来事以来、もはや何度目かも判らない夜。
数日の間隔を空けて求めてくる彼の相手をするのも、もう慣れた。
ダルい体をそのままに、ベッドの端に腰掛け服を着るレイヴンの背をジッと見つめる。
こうやって彼に抱かれる度に思い出すものがある。
それは、あの夜消してしまったはずの想いであったり、また、全ての始まりとも言える“あの日”のことだったりするのだけれど。
「ユーリ。」
「何?」
いつの間にか隣のベッドへ移動したらしいレイヴンに呼ばれ、何でもない風に応えてやる。
「ずっと気になってたんだけど。ユーリって、湖でシたのが初めて?」
珍しく神妙な面もちで何を言うかと思えば。
それにしても今更過ぎる質問だと思う。
まぁ、そんなことに一々答えてやる俺も俺だな。
「…だったら何だよ。」
「んー、好きな人でもいたのかなぁ~…って。」
「…。」
どうして今頃になってそんなことを聞くのだろう。
それも、脅しでこの関係を強要したあんたが。
「どうだっていいだろ。第一、俺たちはそんなことを気にするような関係じゃないはずだ。」
「えー。だって気になる。初めてを大切にとっとく程、ユーリが想い続けた相手なんでしょ?」
「…っ。」
「図星?」
動揺を隠そうと、寝返りをうちシーツを深く被り直した。
言えるわけないだろう、そんなこと。
しかも、よりによってレイヴンになんて。
それに、
「もう、いいんだ。捨てたんだから。」
好きになったこと自体が間違いだったのだ。
自分に言い聞かせるようにポソリと呟いた言葉は、レイヴンには聞こえていない。
それ幸いと、誤魔化すために再び口を開いた。
「ずっと男のフリをしてたから、そういう行為に無縁だっただけだよ。」
だからこれ以上聞くな、と言外に含ませながら、本格的に寝る体勢をとる。
それに気づいたのかは知らないが、『まぁ良いけど』とだけ残し彼も静かになった。
レイヴンが好きな人などと言うせいで、また“あの日”の記憶が蘇る。
十年以上も前の、初めて彼と出会った日の記憶が。
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