『青年』と大きな声で呼ばれたかと思ったら、背中にかなりの衝撃がきた。
ヤバい。
最悪の相手に捕まった。
逃げだそうにもガッチリと抱き着かれて身動きがとれない。
だからといって、おっさんに猛烈なアタックをされるのはもうごめん被る。
「いい加減、覚悟決めて返事してよ、青年。」
「嫌だ。どうでもいいからさっさと離してくれ。」
「ダーメ。今日という今日こそ、おっさんの恋人になってちょーだい。」
また始まった。
この数日間、幾度となく繰り返されたやり取りに溜め息をつきつつ、いい加減に諦めろと言いたくなる。
俺が逃げて、レイヴンが追いかける。まるで鬼ごっこのような、このやり取り。
恋人だなんて冗談じゃない。
きっぱりとそう言えばいいだけなのに、肝心の台詞が口から出てくれない。
黙ったまま悶々としていると、首筋に吐息がかかりビクッと震える。
「愛してる。ユーリだって、おっさんのこと好きでしょ?」
…耳元で囁くなんて卑怯だ。
これじゃあ、もう逃げられない。
鬼ごっこを終わらせるべく、くるりと振り向く。
そして勢いのまま鬼の唇にキスを仕掛けてやった。
(アンタが相手だという時点で、俺に勝目なんかないんだよ)
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