目の前で繰り広げられる談義をよそに、手に取った3つ目のクレープにかぶり付く。
食事中にカロルから出た『どうしてレイヴンの作るクレープが旨いのか』なんていう素朴な疑問。
あくまで真実は言わずにモテる為だなどと語りだしたおっさんだが、その答えも何気に間違ってはいない気がする。
というか、おっさんが言うと嘘に聞こえないのだ。カロルたちも信じたらしく、普通に聞いているし。
――まあ、
俺と付き合う為だなんて口が裂けても言えないんだろうけど。
最後の一口を食べきり、チラッとおっさんを見やる。話も終わり、視線の意味に気づいたらしい彼は、皿を片手に此方へやってきた。
「青年、もひとつ如何?」
サンキュ、と一つ取り、4つ目のクレープを口にする。
そして、ちゃっかりと隣に座り込み、茶をすすりだしたおっさんを見るとニヤリと胡散臭い笑みが帰ってきた。
嫌な予感がして慌てて顔を反らそうとするが、その前に聞こえる潜めた声。
「ユーリに告白した返事が、『クレープをマスターした奴じゃないと付き合いたくない。』だなんて、少年たちには言えないわよねぇ。」
あぁ、全くサッサと逃げときゃよかった、なんて思いながら真っ赤になった顔を隠そうとしても、おっさんにはお見通しらしい。
横から盛大な笑い声が響き、カロルがどうしたのなんて驚いている。
何でもないと言いつつ、おっさんはさり気無くもまだクレープの乗った皿を置いて、他の仲間の元へ歩いていった。
甘いものが苦手な彼には不可能だろうとふんで出した条件が、こうも容易くクリアされるとは。
少しの後悔をしながら、5つ目のクレープに手を伸ばした。
(一生懸命にクレープを作る姿に絆されてしまったなんて)
(レイヴンには絶対言えない)
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