ゾフェル氷刃海の寒さは厳しく『大丈夫か』と後ろを歩く仲間に声を掛ける。
振り向きざま隊列の一番うしろを歩くおっさんが目にはいるが、その唇のあまりの白さに慌てて、すぐ後ろを歩くジュディスに先頭を任せ、おっさんの元へと移動する。
「休憩するか?」
少し休んで温かいものでも作ってやろうかと思ったが、返ってきたのは『動いてなきゃ凍っちまうわよ』なんて返事。
しょうがないから、おっさんの横を歩きつつ、本当に大丈夫なのかと考える。
心臓魔導器の身で精霊を作るために生命力を削ったのだ。かなりの無理をさせたことぐらいわかっていたはずなのに。
こんな少しの変化にも動揺してしまうなんて、それだけ自分は彼を失うのが怖いのか。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。寒いと心臓魔導器の動きがちょっとばかし鈍くなるだけだから。」
だから大丈夫だと笑いながら俺の背中をバシバシと叩いてくるおっさんに、心配した自分が馬鹿に思えてくる。
それにしても、どうしてこうもタイミング良く言葉を掛けられるのか。不思議に思っていると急に名前を呼ばれる。
「心配してくれてあんがとね。」
感謝を口にさながらもその顔はニヤけきっており、そして、俺の考えなど言葉にしなくとも全てお見通しだとでも言いたげな視線が異様にムカついた。
意趣返しを兼ねた悪戯を思いつき、レイヴンを呼ぶと顔だけ此方に向けてきた。
そして、吐き出されかけた白い息もろとも彼の口を塞ぐ。もちろん、俺の口で。
「これで少しは体温上がるだろっ。」
滅多にしない俺からのキスに固まったままのおっさんを置いて、真っ赤な顔を隠すように一番前へと駆け出した。
「それは反則でしょ…ユーリ。」
残されたのは、此方も真っ赤な顔をした一人の男だけ。
(唇から少しでも温もりが移ればいい)
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