「ちょっとだけ昔話するけど、青年、聞いてくれる?」
短く「あぁ」とだけ返事をした俺をちらりと見て、ゆっくりと視線を月に移す。
そして月を見上げたまま、内緒話でもするかのような小さな声で語り始める。
「――――・・前に俺が人魔戦争に参加してたってことは、言ったわよね。そして、その時に1度死んでることも・・・。
あの時にさ、おっさんには好きな人がいたんだわ。キャナリっていうんだけど、気が強くてなかなか良い女でさ。まあ、どうやら俺様の片思いだったみたいだけど。
んで、キャナリも軍の人間でね。人魔戦争にも参加してたわけ。たまたまあいつの部隊も俺達の部隊と同じくして、あのテムザ山に入ったんだけど・・・そこはまさしく地獄だった。とてつもない力を持った魔物を前に、軍の人間は次々と死んでいく。
たった数日の間に、何百といた俺の部隊はほぼ壊滅状態だ。近くにいたあいつの部隊もまた同様で、気づけば俺とあいつを含めた数人だけが、その場で戦っていた。
そんな時に、敵のリーダー的存在の魔物が俺達のところに現れた。ただでさえ数人しか残っていない俺たちでは、とても太刀打ちできるような相手じゃなかったのよ。残ってた仲間も次々に倒れていく。そして、俺も不注意に怪我をおって動けなくなっちゃってね。
その時だった、魔物がキャナリに狙いを定めたのは。あいつだって、それなりに腕は立つ。でも、あんな化け物相手に一人で戦うなんて無謀でしかなかった。それでも、あいつは逃げようとはしなかったのよ。
いくら俺がやめろと叫んでも。
もちろん魔物は止まっちゃくれないわけ。そして、キャナリの体が血に塗れ静かに地面に倒れ伏す瞬間を、俺は見ることしかできなかった。
俺もそのすぐ後、力尽きちゃったわけだけどさ。意識のなくなるその時にあいつの遺体と、新月前の細い月が見えていた。」
そこまで語ると、何も言えず、ただ話を聞いていた俺にレイヴンがふと視線をむけてきた。
「・・・ぁ。」
視線に隠されたあまりにも強い悲しみに、無意識にかすれた音がこぼれる。
そんな俺に苦笑し、少しだけ悲しみの薄められた表情。
「だから、今夜みたいな月を見ると、ついついそのこと思い出しちゃってね。まぁ、まさか青年に気づかれてるとは思わなかったんだけど。」
「・・・ごめん。」
やっと発した言葉はただ一言。
それでも、レイヴンにはその意味がわかったようで、苦笑いがさらに深められた。
「何で青年が謝んのよ。俺は、青年にこうやって聞いてもらえたことに感謝してんだからさ。」
レイヴンの口からでた思いがけない言葉。
「感謝?」
言葉を繰り返す俺の目の前には、優しい微笑みがあった。
「そ。いままで道具として生き続けていた俺には、こんなこと言える相手なんていなかったから。青年に聞いてもらって、昔のこと、少しだけ整理ができた気がするのよ。」
だから感謝なのだと続けるレイヴンには、彼らしい笑顔が戻っていた。
レイヴンの手が俺の頭に乗せられ、わしゃわしゃと少し乱暴に撫でる。
いきなりのことに、俺はきょとんとしたまま動けない。
「少年や嬢ちゃん、ジュディスちゃんにリタっち、ワンコも。今の俺には、頼れる仲間たちがちゃんといるからね。それに――」
頭を撫でていた手がするりと頬まで降りてきた。
「レイヴ・・・っ」
「何より、ユーリが傍にいてくれるでしょ。」
頬から腰へと移った手に抱き寄せられて、抵抗も出来ずに温もりに包まれた。
「おっさんにとっては、ユーリが一番の支えだから。」
ギュッと抱き締められて感じる彼の温もり。
微かに香る彼のにおい。
それら全てに安心する。
さびしい思いは消え去って
あるのはそばに居られるという喜びだけ
(それを幸せといわずに何というのか)
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捏造しまくりな上、途中で無理やり終わらせたからかなりのぐだぐだ具合。
お題:確かに恋だった
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